自分の天性を自覚しよう

作家の清水義範氏が、数人の小学生に1年間作文指導をした記録、「清水義範の作文教室」。
実際に子どもたちが提出した作文と、それに対する清水先生のコメントがリアルに読めて楽しいです。

作文指導を通じた清水先生の偉大なる発見、それは「その子の天性を生かす」ということ。
大人の私たちにも、まったく同じことが言えます。

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「心の動き」がない作文

清水先生の指導方針は「楽しく書くこと」。
原稿用紙の使い方の細かいルールや、誤字脱字は、ゆったりとした姿勢で対応。たしかに、字の間違いを指摘され続けると、書くこと自体がイヤになりますからね・・・。

まずは書くことの楽しさを知ってほしい。
そんな気持ちで、子どもたちに自由に作文を書いてもらいます。

回を追うごとに、のびのびと作文を書くようになる子どもたち。清水先生のご指導の賜物・・・なのですが、ひとりだけ先生の思うようにならない生徒がいました。それは、小学校3年のKちゃん。


彼女の作文から「どうしても彼女の心が見えてこないのだ」と、清水先生を悩ませます。
どんなテーマでも、報告文書や観察記録のような作文を書くKちゃん。

毎回毎回、「それで、どう思ったの」「楽しかったの」「悲しかったの」と、「気持ち」を教えて欲しいとアドバイスする清水先生。

しかし、どれだけ言われてもKちゃんは心の動き具合を作文に書きません。
とってつけたように、「楽しかったです」と作文を締めくくるのが精いっぱい。
あったことを、淡々と書き続けます。

天性に無いものは引き出せない

「この子には、心の動きがないのか」と清水先生は悩みます。

私は小説を書こうというような人間である。つまり、人間の情緒的な部分に関心が高いわけだ。だから文章にも、心の動きが書かれていることを好んでしまう。心の動きこそがドラマなんだよね、と思ってしまう。

清水義範「清水義範の作文教室」ハヤカワ文庫


このようにおっしゃる清水先生は、1947年10月28日生まれ。
ホロスコープを見ると、太陽・水星・金星・木星が蠍座です。

深い洞察力で、隠れたものを見抜く蠍座。
目に見えない人間の情緒は、言ってみれば「隠れたもの」の代表。
言葉では「楽しかった」と言ったとしても、その裏には違うものが隠れている場合もある。その「裏」に興味があり、引きつけられてしまうのが蠍座です。
言葉に表されない心の動きを知りたい、表現したいというのも当然。

だから、作文とはそういうものだ、と考えるのもこれまたごもっとも。

何を見た、何をした、何を食べた、だけではなく、その時どう感じたのかもぜひ書いてちょうだいよ、とくどいほど何度でも指導しているのだ。それが出てこないと、この子には心の動きがないのか、なんて思ってしまう。

清水義範「清水義範の作文教室」ハヤカワ文庫

こう思いながら指導を続けていた清水先生。

しかし、指導を重ねるにつれてこんなことを思います。

でも、その指導法はちょっと違うのではないかと思えてきた。心のない子もいるのである。心がないというのはオーバーな言い方だが、どうしても関心がそっちへ行かない子だっているのだ。そういう個性であり、天性なのである。

清水義範「清水義範の作文教室」ハヤカワ文庫


「心の動きこそがドラマなんだよね」と思う清水先生に対して、クールに観察記録をつづるKちゃんは、「この客観的事実こそがドラマなんだよね」と思っていたのかもしれません。

天性にないことは、どんなにいい指導をしたって、引き出せないのだ。そういうことを私は思うに至った。

清水義範「清水義範の作文教室」ハヤカワ文庫


学年がひとつあがり、Kちゃんは「春を感じたこと」というテーマでこんな作文を書きました。

……からすのえんどうは、もうぷくぷくにふくらんでいました。たんぽぽももう、わたげになっているやつがありました。
ほかにも、いろいろの草花が学校の花だんや、こうえんなどにありました。
つばめのすもマンションなどの屋根のところや、アパートの天じょうのかどにあります。わたしのみつけたところは、よこまちしょてんの屋根のところです。・・・・・・

清水義範「清水義範の作文教室」ハヤカワ文庫

この作文は、いつものごとく「心の動き」は書かれていないのですが、清水先生はこう考えます。

見事な観察眼ではないか。ほかの子が、あたたかくなってきた、桜が咲いた、陽が長くなってきた、ぐらいしか書けない(気がつかない)のに対し、彼女はこんなにも豊かに春を感じ取っているのだ。

清水義範「清水義範の作文教室」ハヤカワ文庫

そして、科学的観察者として並ならぬ能力を持っているKちゃんを、情緒側に引っぱりこむことばかり考えていた、と不明を恥じる清水先生。

Kちゃんのホロスコープはわかりませんが、論理的に思考するのが得意な風のエレメント(双子座、天秤座、水瓶座)とか、感じることに優れた地のエレメント(牡牛座、乙女座、山羊座)が際立っているんじゃないかな?と想像します。

もちろん彼女の感受性もいつかは花開いていくだろうが、今はとにかく、観察眼をさらにのばすように指導していくのが正しいのだ。

清水義範「清水義範の作文教室」ハヤカワ文庫

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自分で自分の天性を引き出そう。そして、ほめよう

大人になると、指導してくれる人はなかなかいません。
その代わりに、自分で自分を指導することができるようになります。

鋭い観察眼が持ち味なのに、情緒側に軸足を置こうとしていないか。
ほんとうは情緒にどっぷりつかりたいのに、客観視しようと無理していないか。
天性にないものを「これがない」「あれがない」と指導していないか。

大人になると、自分自身に対して厳しい指導が得意な人が多いように思います。


すでに持っている自分の天性を認めて、それをのばそう、という視点を持ちたいものです。
子どもの個性を認めて伸ばしてあげるのと同じように。


また、清水先生は作文指導の極意は「ほめること」と言っています。
ほめて、いかに「書きたい」という気持ちを持続させるか。
ダメ出しばかりでは、「やりたい」という気持ちを維持するのは難しい。

これも、大人になった私たちが、自分で自分を指導するときに、ぜひ覚えておきたいコツですね。