聞こえないものに耳を傾ける【ミヒャエル・エンデ「モモ」のメモ】

ミヒャエル・エンデ「モモ」の読書会のメモ。

廃墟となった円形劇場に住み始めたモモ。
近所の人たちにとって、モモはとても役に立つ存在でした。
何かあると、「モモのところに行ってごらん!」が、みんなの決まり文句になったほどです。

モモがみんなの役に立ったのは、「あいての話をきくこと」。

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「ほんとうに聞くこと」ができるモモ

なあんだ、そんなこと、とみなさんは言うでしょうね。話を聞くなんて、だれにだってできるじゃないかって。
でもそれはまちがいです。ほんとうに聞くことの出来る人はめったにいないものです。


「モモ」岩波書店、ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳

モモは、「質問力」が高いわけではありません。
ただじっと座って、相手の話を聞いているだけ。

要所要所で気の利いたコメントをさしはさむこともありません。
大きな黒い目で、相手をじっと見つめているだけ。

モモのところへ、ふたりの男がやってきたときもそうでした。
大げんかをして以来、敵みたいににらみ合っているふたりです。

ふたりの男は、離れ離れににらみ合って座る。
モモは、どちらとも同じだけの距離を保って座る。
そしてモモがしたことは。

ふたりをかわるがわるながめました。そしてどういうことになるか、待つことにしました。なんであれ、時間というものが必要です――それに時間ならば、これだけはモモがふんだんに持っているものなのです。


「モモ」岩波書店、ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳

ふたりの男は、モモの前で怒鳴りあいを始めます。
モモは相変わらずじっと黙ったまま。

結局このふたりの男は、非常につまらないことでケンカしていたことに気づきます。
最後には、抱き合って仲直りをして帰っていきました。

フシギですね。

モモは、二人から等距離のところに座っていただけです。
ひょっとして、モモがいなくても、言いたいことを言いあえばふたりの男は仲直りできたのでしょうか。

「聞こえないもの」を聞くことができるモモ

最近「シンギング・リン」とご縁がありました。
「シンギング・リン」の音色の特徴は、幅広い音域の音が同時に響くこと。
その中には、人間の耳で聞こえる範囲を超えた周波数の音も含まれています。

初めてこの音色に触れたとき、私はふっと「すべてのものがあるのだな」と思いました。

人間は、あまり低すぎたり高すぎたりする音は聞こえないようになっています。
聞き分けられる周波数の範囲には個人差があり、年齢が高くなると高い音が聞こえにくくなってくる。

人間が聞こえない周波数の音は、聞こえないから「ない」わけではありません。
コウモリは、人間が聞こえる周波数よりもはるかに高い周波数の音も聞くことができます。

私たちはとても幅広い周波数の音に囲まれています。
様々な周波数の影響を受け、影響を与えてもいるでしょう。
耳に聞こえないからその存在に気づきづらくて、その存在をついつい忘れがち。
けれど、「ある」ことを思い出しさえすれば、聞こえないものは何かを私たちに返してくれます。

モモは犬や猫にも、コオロギやヒキガエルにも、いやそればかりか雨や、木々にざわめく風にまで、耳をかたむけました。するとどんなものでも、それぞれのことばでモモに話しかけてくるのです。


「モモ」岩波書店、ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳

犬や猫、雨や風には言葉はないけれど、言葉以外の周波数で、私たちに何かを伝えている。
そして私たちも聴覚以外のどこかでそれを感じることができる。
雨や風にまで耳をかたむけるモモは、「聞こえない周波数」の存在を忘れることはありません。
そして何より、モモは聞こえないものに耳を傾けるための時間をもっている。

なんであれ、時間というものが必要です――それに時間ならば、これだけはモモがふんだんに持っているものなのです。


「モモ」岩波書店、ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳

ふたりの男の言い争いにじっと耳を傾けるモモ。
耳に聞こえるのは、相手をなじったり、自分の正当性の主張だったりという言葉。
でも、モモが本当に耳を傾けていたのは、その言葉の奥にあるもの。聞こえない周波数で表されるもの。

このふたりの男が交わす罵詈雑言以外に、いったい何があるんだろう。
そんな気持ちで、男たちのやりとりに耳を傾けていたのでしょう。
雨や風に耳を傾けるのと同じように、「聞こえない周波数」の存在を忘れることなく。


そんなモモの「あり方」が伝わり、ふたりの男も知らず知らずのうちに「聞こえない周波数」に触れたのでしょう。
とてもつまらないことでケンカしていたことに、自分たちで気づきました。


きっと、「あり方」というのは周波数のようなもの。
見えないけれど、確実にある。
だから、影響を受けるし、影響を与える。
やはり、モモがいたから仲直りができたのです。

モモのメモ
「聞こえないものもある」ことを思い出す。
そして、聞こえないものにも耳を傾けて、感じてみる。
時間をかけて。

数で表すことを忘れてみる【ミヒャエル・エンデ「モモ」のメモ】

2019年6月10日