じぶん創造タロット

じぶんにとって日々をよいものにするためのHOW

カズオ・イシグロ著「日の名残り」

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本好きの知人が教えてくれた「日の名残り」。

 

こんな本だよ~と簡単に語ってくれたのだけれど、その説明を聞いたら間違いなく100人中120人はアマゾンのボタンをクリックすると思う。

読んでみたい!というスイッチをONにさせる説明といったらいいのでしょうか。

 

ご本人には、スイッチをONさせようなんていうつもりはないのだろうけれど、こういう風に作品の魅力を語れるというのは、本好きならではの力だなと驚嘆しました。

 

そういうわけで手にとってみたこの本。

面白くて、一気に読みました。

 

舞台はイギリス、初老の男性スティーブンスが主人公。

執事としての品格を追求し続けた彼が、短い旅の中で自分の執事人生を振り返ります。

そして、「執事たるもの」にこだわるあまり見過ごしてきたものに気づきます。

小説のラストでもある旅の終わり、しみじみと悲しさや痛みをかみしめるスティーブンス。

見過ごしてきたものもあったけれど、結局私はこう生きることしかできなかったのだ・・・と。

 

いやいや、スティーブンス、立派に執事として勤めを果たしているんだから後悔しなくていいいよ!と思いながら読んでいたら。

 

最後の最後、かねてから、ご主人様を満足させるレベルに達していないと気にしていたあるスキルを、もっと熱意をもって磨きをかけよう!そしてご主人に喜んでいただこう!と決意するのです。

執事魂再燃です。


執事であることに徹底し、執事としての視点ですべてを捉える。

どこまでいっても執事なスティーブンス。

 

職業である執事としての目線でしか物事を見ていない。職業や肩書きを取り払った素の自分の目線をないがしろにしている、という見方もできると思います。

果たして、それで、あなたは人生に満足しているの?

執事以外の自分としてやりたいことをやっていないのではないの?って。

 

でも私はこう思いました。

彼にとっての執事とは職業の域を超えたもの。

彼の魂が現世でやりたいことを具現化するために選んだひとつの型。

やりたいことを全部達成するには、執事という型が最もふさわしかった、というだけなのではないかと。

 

だとしたら、自分を生きるという目的は十分に果たされているわけで、振り返って悲しさや痛みを感じる必要など全くない。

 

旅の終わりに、ちょっと感傷的になって執事人生を振り返るひとときは、決して後悔するために設けられたものではなくて、執事人生の充実感を鮮明にさせるための時間。

ぜんざいの甘さを際立たせるために添えられた塩昆布みたいなモノなのだと思います。

素敵な人生じゃないの、スティーブンス!と拍手したくなりました。



もうひとつ興味深かったのが、翻訳者の土屋政雄さんの訳者あとがき。

こんな要旨です。

 

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旅先のフィンランドで買った「ニューズウィーク」。

本当に買いたかったのは隣に並んでいた雑誌だったけれど、諸々の事情でニューズウィークを買わざるを得なかった。

ホテルでめくっていたら、書評のページに「日の名残り」の内容が紹介されていた。

それを読みながら「私もいつかこんな本を翻訳してみたい、そういう翻訳家になれますように」と願った。

帰国して本当に「日の名残り」の翻訳依頼が来た。

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私、こういう話が大好きです~。